夏の月夜と狐のいろ。




シアンはベッドから体をおこし、立ち上がり
部屋の入り口に向かって走り出した。


しかし何かに勢いよくぶつかり、それをはばまれる。



「おっと、どこにいくんだ?」


そんな声が上からふってくる。

そこには冷たい瞳をゆらすラシッドがいた。


「ラシッド・・・!」



シアンはあとずさりして
ラシッドの目をにらみつける。

その赤い瞳は、楽しそうだ。



―ここでおこってることも
私がここであれを見ることも知ってたんだわ!



シアンはラシッドの瞳をみた瞬間悟った。



ラシッドは嫌な笑みをうかべて微笑む。


「そう、吠えるな。何をそんなに怯えて怒ってるんだ?」


シアンは答えず、睨み続ける。

するとラシッドはやれやれと
首をふり、手招きした。


シアンはしっぽ2本分以上の距離をあけてラシッドの後を追う。



ラシッドは、あの窓の前でとまった。



シアンは反射的にびくりと立ち止まる。



「ここから見える景色は、物見小屋の
見せ物ショーだ。だいたいはショーに2,3回出たら殺されちまう。」



頭にあの少女の瞳がうかんだ。


殺されてしまう恐怖にみちた瞳だ。