夏の月夜と狐のいろ。




「……?」


ツキは不思議そうに首を傾げている。

今までどんなふうにあつかわれてきたのか、まだその瞳は怯えたように揺れている。


シアンは小さく手をふった。


「ばい、ばい…行ってくる」



シアンがぽつっというと、ツキは自分のときのように何かされるのだと思ったらしく恐怖と悲しみで顔をゆがませる。



その瞳をみつめ、そらすと男はくるりと向きを変えて扉に向かった。


バタン、と扉がしまりまだ出たことのない廊下にシアンは出た。


肩にのせたまま、ぐんぐん運ばれていく 。



途中、あのツキをひきずっていった男がいたのでシアンはびくっと体を震わせたがその男はこちらに向いてぺこりとお辞儀した。



どうやらシアンをかかえている男はずっとえらい地位にいるらしい。



そのままなんなくそこをとおりすぎ再び廊下にあった扉を開き、男は進んでいく。



扉の先には階段が地下へとのびていた。




そしてさらにその先には実験施設のようなものが広がっていた。



男は、シアンをおろす。



「しばらくお前はここにいるんだ。」



男はさも楽しそうに赤い瞳をほそめた。

シアンの背筋が、ぞくりとした。