夏の月夜と狐のいろ。




しばらくぼうっとしていると横でツキが身じろぎした。


「ツキ?」


シアンがそっと声をかけるといくらか覇気をとりもどした茶色い瞳がこちらにゆっくりと向けられた。


ツキはそのままぐっと体をおこし、頭をかるく押さえて座る。



「大丈夫、だよ」



ツキはそういうとパンは食べずに牢屋のすみに座りながらぽつりと言う。


「ここは怖いところだよ。
物のようにあつかわれて、見せ物にされて。

私、すっごくここの人たちが嫌い」



その声は絶望に満ちていた。



「人間が、嫌い?」


シアンはそう訊いた。


ツキはゆっくりと首をふり、少し無理に微笑んで答えた。


「ううん。みんなが悪い人じゃないと思うよ。」



シアンはそれをきいてほっとした。
頭には、ノエルのことが浮かんでいた。


シアンは返事のかわりに尻尾をぱさりとふりすぐにはっと前をみすえた。

ガタッと扉が鳴ったからだ。

横ではツキも昨日のように怯えた顔でいた。




扉をじっと見つめる。

次は私の番かもしれない…!



シアンもツキも、おびえて扉を見つめていた。


そして、扉が開かれた。