夏の月夜と狐のいろ。



そのままクロはすたすたとシアンの横を通り過ぎてノエルの後を追う。


シアンはぼうっとしてクロの背中を見つめていた。



「どうしたんだ?来ないのか?」



けれど、クロのその声ではっと我に返った。

おそるおそるクロの目を見ると、クロはいつも通りの呆れたような目でこっちを見ていた。


さっきの表情は、浮かんでいない。


・・・気のせいだったのかな。

そう、きっと気のせいよ!


無理やりさっきのことを頭から振り払い、シアンはにこっと笑って見せた。


「ごめん、いま行く」



シアンがそう答えるとクロはため息をついて再びゆっくり歩き出した。

シアンはすぐに追いついて横に並んだ。



けれど、前方に、ノエルの姿はない。


ぼうっとしすぎて、遅れちゃったかな。



「ねぇ、クロ、ノエルは―・・・」




そこまで言いかけたところで、前方でビカッと青白い光があがり、あたりに電流が這った。

そして大きな音が轟いて地鳴りがしたかと思うと再び前方の森は静まり返った。

静まり返った森の奥では、まだチカッチカッと青白い電流が光っている。





「ノエル!!」


シアンは子狐を抱えたまま急いで走り出した。

―前には、ノエルがいるのに!