夏の月夜と狐のいろ。


「シアン?大丈夫?」


シアンはその森の光景をしばらく見つめていたが、ノエルのその声ではっとわれに返った。


シアンはノエルをおろすためにまたその場に腹ばいになりながら尻尾を無理やりにふるう。


『大丈夫よ!』


ノエルが降りたのを確認すると心配そうにこっちをみてくるノエルをじっと見返して、ゆっくりとまばたきした。



そして、人間の姿に再び化けるとおそるおそる足を森の中に踏み入れた。



後ろではノエルと狼の姿のままのクロそれにあわせてついてくる。



森の中に足を踏み入れるといっそう強く焦げ臭いにおいが強くなって、目がちかちかした。



一歩踏み出すたびに白い灰が足をおおう。



そこは、懐かしい森で、でも森ではなかった。


シアンは無言のまま森の奥へ、お父様がいつも座っていた森の奥へと足をただひたすらに進めた。


「きゃっ」


そのとき何かにつまづいてシアンはバランスを崩しそうになった。


―地面に落ちていた倒木かなにかしら?


シアンはさっと視線をめぐらせて足元を見る。


「・・・・!」



けれど、それは倒木ではなかった。


そこに転がっていたのは黒くすみにまみれ、焼け焦げた狐の死体だった。