夏の月夜と狐のいろ。




シアンはローブを全部脱いで、尻尾を揺らした。


「私はシアン。九尾狐のシアン。」


シアンが挨拶すると、ウルーは少し珍しそうにシアンの尻尾を見た。

珍しいんだろうな、と思った。
九尾狐も今は、もうたったの2匹しかいないのだから。



「僕はクロウだ。クロでいい」


いつの間にか耳と尻尾を出したクロが低い声で挨拶した。


ウルーは首を傾け、クロを見た。



「お前も狼か。見たことない種類だな」


クロは尻尾をばさりと振ると、唸るように言う。


「まぁ、僕は人間に改造された哀れな狼だからな」


皮肉っぽく言うと、ウルーが申し訳なさそうに、そして何か思いついたような目でこっちを見た。



銀色の耳が、ぴくぴくと動いている。



「お前たち、どこから来たんだ」


シアンは一瞬、ためらった。
再びラシッドへの怒りが込みあがるが、なんとか飲み込む。



「そこの、物見小屋の地下から来たの。嫌な人間がいっぱいいるところ・・・」



ツキのことを思い出して悲しくなった。

やっぱり、死んじゃったのかな。



「・・・そうか。お前らもか。俺も先日物見小屋から脱走してきた子を助けた。
シアンより、少し年下の感じの、狼とのハーフの子だ。」



シアンは、ばっと顔をあげた。


その状況は、あまりにツキのことと一致していた。

ツキが生きているかもしれない・・・
脱走は成功していたのかもしれない!

尻尾が小刻みにふるふると震える。


「その子、ツキって名前じゃなかった・・・?」