「天内君、行こうか」

あたしの隣で、お墓に手を合わせていた門川君が微笑んだ。


「うん」

あたし達はもう一度手を合わせて、墓所を後にする。


「日が暮れるのが本当に早くなったねぇ」

「風も冷たい。晩秋だな」

そんな会話を交わしながら、並んで歩く。


もう周りは薄暗くなり始めている。

空は濃いオレンジと濃紺が混じり合い、夜の気配を漂わせている。

土を踏む音が静かに響く。

頬を撫でる風の冷たさが沁みる。


秋の夕暮れ時。



門川君は、お岩さん達に負けず劣らず忙しい日々を送っていた。

本当に寝る間もない。

時々、文机の上で筆を手にしたまま眠り込んで、朝を迎えたりしてる。


お墓参りって名目で、やっと彼と二人きりになれた。

絹糸としま子が気を使って、遠慮してくれて。

今、彼と肩を触れ合わせながら夕暮れの道を歩く。


門川君は穏やかな表情だ。

時折、あたしを見ては優しく微笑む。

あたしも微笑み返して・・・

つんっと顔を背ける。


「天内君、どうした?」

「いやぁ、トラウマが疼いちゃってさぁ~」

「トラウマ?」

「この場所で門川君に優しい笑顔を見せられると、ま―た何か企んでるじゃないかと勘ぐっちゃってさ~」

「・・・・・」

「記憶喪失の危険性とかさぁ~~」

「・・・悪かったよ。だから謝っただろう?」


むすっと口を曲げる彼の顔。

なんだか子どもみたい。

可愛くて、つい笑ってしまった。


不機嫌そうな顔であたしを見ていた彼も、ふっと笑う。