あたしが門川の屋敷に帰ったときには・・・

もうすでに、いろんな事が変化していた。


門川君は、歴代当主の私室に移って生活していた。

もうすぐ正式な当主就任の儀式も行われる。


彼にかかっていた冤罪は、全て帳消しになっていた。

次期当主になるのは、もう彼以外にいないからって事もあるんだけど。

掃除係の小人さん達が、奥方の部屋から家宝の水絵巻を見つけ出したんだ。


晴れて門川君は潔白を証明した。


なんで奥方は、水絵巻を処分してしまわなかったんだろう。

自分の罪の決定的な証拠になるのに。


もしかしたら・・・


捨てたくても、捨てられなかったのかもしれない。

水絵巻は、大切な思い出を甦えらせるから。

奥方は水絵巻を使って、密かに夫に会っていたのかもしれない。


今となっては想像するより他に無いけれど。


奥方の罪は、公表される事は無かった。

門川君がそれを望まなかったから。

「それが一番いいんだ」

彼はそう言っていた。


だから奥方もお兄さんも秋風さんも・・・。

ごく普通に、当たり前に、英霊として祀られている。

あんなにも多くの出来事の全てを飲み込んで。

今はただ、静かに・・・・・。



物言わぬ墓石を見ていると、遠い過去の夢のような気がしてくる。

不思議に冷静に思い返す事ができる。

まだ、全てを消化するには時間が全然足りないけれど。


あと10年、20年、30年経ってこの場所に立つ時には・・・

今とは違う感情でいられるのだろうか?