神様修行はじめます! 其の二

呆けたまま、その光景を見守っていて・・・。

ふと、奥方がジリジリと動き出すのに気がついた。

ずりずりと這いつくばり、大きな窓に向かって行く。

門川君もそれに気付き、上体を起こす。


あたしと彼は黙って奥方の姿を見ていた。

奥方の進んだ床の後に、濃く太い血の線が描かれる。


「死なぬ・・・死な、ぬ・・・」

うめくような奥方の声。

どこへ行こうというのか・・・。


もう、全ては終わってしまったというのに。


「わらわは、真の神の母・・・」

べたりべたり、と手の平を床に叩きつけ、渾身の力で奥方は窓に向かう。


這いつくばり、もがき、全身を霜に覆われて。

もはや命の終焉を迎えようとしているのが、手に取るように分かった。


ぶるぶると痙攣する手が窓辺に着いた。

笛のような断末魔の呼吸音を鳴らしながら、奥方は窓から外を見る。


大きな月が、夜空にぽっかりと浮かんでいた。

まるで手が届きそうに。


白銀に輝き、夜の世界を照らす。

地上の世界は見渡す限りの紅葉。

繚乱の錦絵が遥か彼方まで、色彩を誇り埋め尽くしていた。


暗闇に浮かぶ極上の屏風絵のよう。