神様修行はじめます! 其の二

彼の手の中で銀のメガネが姿を変える。

一振りの美しい日本刀に。


氷が透き通るかのように白く輝く刀身。

刀全体から立ち上る冷気の煙。

それを見た奥方が驚愕した。


「それは・・・!」

「我が母の形見の品です」

「あの女の遺したものは、全てこの世から抹殺したはずであったのに!」

「おばあ様が形を変えて、僕に下さったのです。誰にも言ってはならぬと固く言い含めながら」

「・・・おのれ永世め! 小賢しいまねを!」


奥方のこめかみに、びりびりとスジが立った。

目が釣りあがり鬼女の顔に変貌する。

扇子をこちらに向け、激しく叫んだ。

「天の裁きを下されても、まだ諦めぬのか!」

そして歯をムキ出しにして叫ぶ。


「死してなお、お前はわらわに刃向かうか!・・・淡雪(あわゆき)め!」


憎んで飽き足らぬ女の名を叫ぶ奥方。

奥方にとって、この刀はその人そのものなんだ。

憎い女が産んだ、その美貌に生き写しの子。

憎い女の遺した力を手にして、自分の前に立ちはだかる。


奥方にとって敵は門川君では無いんだ。

奥方は今でも、彼のお母さんを滅ぼそうとしている。

もうとっくの昔に殺してしまった相手を。


自分の犯した罪の亡霊に囚われてしまっているんだ。


そこから逃れるすべはもう、無い。

罪を犯した時点で、奥方は自分で逃れられない道に入り込んでしまった。

そうとは知らずに・・・。