神様修行はじめます! 其の二

「下賎な女に永守様はたぶらかされた! 騙されたのじゃ!」

奥方は憎々しげに叫び続ける。

門川君を鋭く睨みつけながら。

憎悪の塊のような表情で怒鳴り散らした。


「すべて・・・すべてお前の生母が悪いのじゃ!」


この人は・・・


奥方は恋をしていたんだ。

夫を愛していた。

生まれて初めて恋をして、人を愛した。

この人にも望むものがあったんだ。


でも、叶わなかった。


想いを伝えるすべを、この人は知らなかった。

あまりにも歪んだ状態で育てられたから。

人との絆を育む事は不可能だった。


良かれと思ってやった事が、全て裏目に出てしまう。

そのたびに夫の心は離れていく。

いったいなぜなのか理解できない、まったく分からない。


そのうちに夫の心は当然のごとく、別の女性に奪われる。

自分は完璧で非の無い妻なのに、なぜ?

・・・あの女が全て悪い。

あの女が憎い。憎い。憎い・・・。


叶わぬ想いが恨みになる。

哀しい想いが憎しみになる。

そしてどこまでも膨らんでいく。


「わらわから全てを奪おうとしたのじゃ! 神の母の座も! 永守様も!」


まるで門川君がその本人のように、奥方は怒鳴り続ける。

憎しみを彼にぶつけ、恨みを吐き続ける。

感情は爆発して、もう押さえようが無い。


よほど・・・よほど憎んでいたのだろう。

本当に、苦しくて悲しかったのだろう。

それほど、愛していたんだろう。

ひとつも伝わらず、叶わないままに・・・。