「・・・詭弁じゃ」
扇子の奥から奥方の声が聞こえる。
陰に隠れてその表情は見えない。
「お前の言う事は全て、後付の屁理屈にすぎぬ」
「そうかもしれません」
表情の見えないまま、奥方の言葉が続く。
門川君がそれに答えていく。
「あのふたりの哀れさを認めたくない故の、こじ付けじゃ」
「そうかもしれません」
「つまるところ、なにひとつ形に遺せなかったという事であろうが」
「目に見える形というなら、そうなのでしょう」
「それを認めるのじゃな?」
「はい」
「ならば・・・」
ちらりと、奥方の片目が扇子の端から覗く。
「持って生まれた宿命を果たせず逝った。それは負け犬じゃ。やはり役立たずの命であったのじゃ」
永継は当主となるため生まれたのは間違いない。
あの女は、その永継の命を守るのが宿命であったのは間違いない。
それを果たせず逝った負け犬たち。
ひとつの役にも立たぬまま逝った命たち。
なんの意味もない。
「いったい何のためにこの世に生まれてきたものか分からぬわ」
「それが間違いなのです。母上」
「・・・・・違う?」
「当主となるために生まれたのではないし、守るために生まれたのでもないのです」
「・・・なにを言う?」
意義も、意味も。
役に立つも立たぬも。
何のためにも、無いのです。
人はただ・・・
「ただ人は、生まれるべくして生まれるのです。・・・母上、あなたも」
扇子の奥から奥方の声が聞こえる。
陰に隠れてその表情は見えない。
「お前の言う事は全て、後付の屁理屈にすぎぬ」
「そうかもしれません」
表情の見えないまま、奥方の言葉が続く。
門川君がそれに答えていく。
「あのふたりの哀れさを認めたくない故の、こじ付けじゃ」
「そうかもしれません」
「つまるところ、なにひとつ形に遺せなかったという事であろうが」
「目に見える形というなら、そうなのでしょう」
「それを認めるのじゃな?」
「はい」
「ならば・・・」
ちらりと、奥方の片目が扇子の端から覗く。
「持って生まれた宿命を果たせず逝った。それは負け犬じゃ。やはり役立たずの命であったのじゃ」
永継は当主となるため生まれたのは間違いない。
あの女は、その永継の命を守るのが宿命であったのは間違いない。
それを果たせず逝った負け犬たち。
ひとつの役にも立たぬまま逝った命たち。
なんの意味もない。
「いったい何のためにこの世に生まれてきたものか分からぬわ」
「それが間違いなのです。母上」
「・・・・・違う?」
「当主となるために生まれたのではないし、守るために生まれたのでもないのです」
「・・・なにを言う?」
意義も、意味も。
役に立つも立たぬも。
何のためにも、無いのです。
人はただ・・・
「ただ人は、生まれるべくして生まれるのです。・・・母上、あなたも」


