神様修行はじめます! 其の二

一歩、秋風さんの足のつま先が動く。

影の上のクナイがボロリと腐り、お兄さんが動き出した。

風切りの音と同時に、秋風さんの黒髪がなびく。

複数のクナイが畳に刺さり、またお兄さんの動きが止まった。


クナイがお兄さんの影を畳に縫い付けてる。

その間だけ、お兄さんは身動きできないんだ。


秋風さんは無言でこちらに向かって歩いてくる。

クナイが腐ると同時に、また動き出すお兄さん。

ドドドッと何本ものクナイが影を縫い止める。


縫い止め、腐らせ、また縫い止める。

その繰り返しが何度も続き、秋風さんとお兄さんの距離は徐々に縮まった。

秋風さんの着物の表面が腐り始めている。


「あ・・・秋風さんっ」

「・・・・・」

「秋風さん、危ない・・・っ」

「・・・・・」


あたしの声に何も答えず、彼女は前に進み続ける。

お兄さんに向かって。

その目は一途にお兄さんを見つめていた。

ただお兄さんだけを・・・。


お兄さんは、暗い情念の光の宿った目で見返している。

彼女が秋風さんだと分かっているのだろうか?

沈黙のままに二人は向かい合い、近づき合う。


「永継様・・・」


秋風さんが、ぽつりとその名を口にした。


ゴオオオッ!と黒紫の煙が秋風さんに襲い掛かる。

彼女の全身が腐敗の煙に包み込まれた。


「秋風さんっ!!」