神様修行はじめます! 其の二

後ろから、すごい力で襟をつかまれ引っ張られた。

あたしは後ろに引っくり返る。

畳に尻餅をつきそうになった時、後ろからギュッと抱きしめられた。

冷たい二本の腕に、羽交い絞めにされるように。


まるで絞め殺されそうなくらい、ものすごい力。

死に物狂いであたしを抱きしめる門川君を、あたしは見る。

彼の目を。

極限状態になってしまっている彼の表情を。


何も言わなくても分かる。

彼がいま何を思い、その心に何が荒れ狂っているのか。


分かってる。

自分が選ぶべき事くらい、彼だって百も承知だ。

なにを行うのが正しいのかくらい、嫌ってほど分かってる。


でもあたしが今の彼の立場なら・・・とても選べないだろう。

自分の命ならば、誰かのために捨てる事もできるだろう。

でも彼の命は捨てられない。

これだけは、これだけはあたしには捨てられない。


なのに


捨てるべきだと声が聞こえる。

そうする事が正しい事だと声がする。

正しい行いのために犠牲を払えと命令する。

『正義の心』が。


自分じゃないのに。

捨てられてしまうのは自分じゃなく、愛する者の命なのに。

その命に犠牲を払わせながら、お前は生きろと『正義』が命令する。


そのままずっと生きて行けと・・・あたしは、残酷にも彼に言ってしまった。

それが正しい、彼が成すべき事だから・・・。