神様修行はじめます! 其の二

音も無く氷柱が宙で動きをぴたりと止めた。

お兄さんを今にも貫く直前に。


・・・え?


ずぶずぶと腐敗し、溶け始める。


・・・え? え!?


氷柱はあっという間にドロリと溶け落ち、畳の上で黒い色の水溜りになり果てた。


そんな・・・。

門川君の氷さえ、腐敗させてしまうなんて・・・。

呆然としているあたし達に、お兄さんが悠然と近づいてくる。


「門川君、やっぱり逃げてっ」

あたしは彼の胸元を手で押して、彼を突き飛ばそうとした。

途端に体に激痛が走り、自分のノドと胸を押さえてうめき声を上げる。


「動くなと言っているだろう!」

「分かった。一歩も動かないって約束するから、今すぐ逃げてっ」

「あと少しなんだ・・・もう少し!」


門川君は逃げようとせず、治療を続ける。

あたしは痛みに耐えながら彼の体を押し続け、叫んだ。


「お願いだから逃げて! 成すべき事があるんでしょう!?」

「動くな! 腐敗が進行する!」

「あたしの言う事を聞いてよ!」

「君が僕の立場なら、見捨てて逃げるのか!?」


逃げ・・・

逃げない、よ・・・


痛みと苦しみで涙が両目に盛り上がる。

それでもあたしは必死に彼の体を押し続けた。

逃げないよ。あたしだったら絶対に逃げない。

門川君を置いて逃げたりなんてしない。

でも、門川君は逃げなきゃならないんだよ!