落ち着かない様子のお兄さんを見ているあたしの耳に、場違いに静かな声が聞こえた。
「永継よ・・・」
声の方向を目で辿る。
奥方・・・。
いつの間にかすっかりと落ち着き、無表情を取り戻している。
奥方が、黒紫の煙が消えかかった我が子に語りかける。
「永継よ、忘れるでないぞ」
「・・・・・」
「永久は・・・お前の弟は、お前から全てを奪ったのじゃぞ」
「・・・・・」
「その事実を、しかと心に留めよ。弟にだまされるでない」
お兄さんの両目の空洞の奥に、鈍い光が戻る。
ほの暗い情念の光が。
その目があたし達を捕らえた。
奥方! あんたは、この期に及んでまだそんな・・・!
どうしようもない憤りと、虚しい気持ちが心の中で交じり合う。
たぶん、奥方が目を覚ます事は無いんだろう。
この人にとっては、こうする事が人生の、自分の存在の全てなんだろう。
それ以外に、この人は自分が生きている事を実感できないんだ。
長い長い時間をかければ、いつかその苦しみから解放されるかもしれないけれど。
でも、もう・・・。
お兄さんの全身から、再び黒紫の煙が立ち昇る。
一歩、こちらに向かって踏み出した。
それを見て奥方の無表情の口元が緩む。
奥方の笑ってる姿を見て、むかぁ!っと腹が立った!
ちょっと同情してやったら図に乗って!
調子に乗ってるんじゃないわよ! あんたを許すつもりは無いんだからね!
「永継よ・・・」
声の方向を目で辿る。
奥方・・・。
いつの間にかすっかりと落ち着き、無表情を取り戻している。
奥方が、黒紫の煙が消えかかった我が子に語りかける。
「永継よ、忘れるでないぞ」
「・・・・・」
「永久は・・・お前の弟は、お前から全てを奪ったのじゃぞ」
「・・・・・」
「その事実を、しかと心に留めよ。弟にだまされるでない」
お兄さんの両目の空洞の奥に、鈍い光が戻る。
ほの暗い情念の光が。
その目があたし達を捕らえた。
奥方! あんたは、この期に及んでまだそんな・・・!
どうしようもない憤りと、虚しい気持ちが心の中で交じり合う。
たぶん、奥方が目を覚ます事は無いんだろう。
この人にとっては、こうする事が人生の、自分の存在の全てなんだろう。
それ以外に、この人は自分が生きている事を実感できないんだ。
長い長い時間をかければ、いつかその苦しみから解放されるかもしれないけれど。
でも、もう・・・。
お兄さんの全身から、再び黒紫の煙が立ち昇る。
一歩、こちらに向かって踏み出した。
それを見て奥方の無表情の口元が緩む。
奥方の笑ってる姿を見て、むかぁ!っと腹が立った!
ちょっと同情してやったら図に乗って!
調子に乗ってるんじゃないわよ! あんたを許すつもりは無いんだからね!


