神様修行はじめます! 其の二

「永継は、天に呼ばれて帰ったのじゃ。真の神の末裔であるが故に」

声が苛立っている。

かすかな怒りがこもっている。

そう、奥方は怒っているんだ。

痛いところを突かれて、苛立ち怒っている。


よくある当然の反応だ。・・・人間の。


「へえ? そうなの?」

「そうじゃ。本来、神とは天上におわすものじゃ」

「じゃあ当主の座はどうするのよ?」

「・・・・・」

「天に帰っちゃったら誰が継ぐのよ」


ばちん!

鋭い音を立てて奥方が扇子を閉じた。

こちらを真っ直ぐ見る顔の眉が、両目が釣り上がる。

完全に怒りの表情。

日本人形のような、いつもの無表情は見る影も無い。


「天上からわらわを通して、永継が統治するのじゃっ」

扇子がびしりと畳を叩く。


「われら親子は選ばれし存在。当然、他の当主達とは立場が違うのじゃっ」

びしりびしりと扇子が叩き付けられる。

奥方の苛立ちが手に取るように伝わってくる。


「じゃあ、なんでお兄さんが天に帰った事を隠したの?」

「・・・・・っ」

「隠したのよね? あのベタベタと貼り付けたお札を見れば、一目瞭然だもの」


神様が天に帰ったんなら、別に隠す事ないじゃない。

特別な存在なんだから当然の事なんでしょ?

なんで、ここまでしてコソコソと皆に隠す必要があるの?