神様修行はじめます! 其の二

「無い」

きっぱりと、奥方はそう言い切った。


「・・・は?」

「わらわは、人であった事実など一瞬たりとて無い」

「・・・・・」


誇るわけでも無く、ひけらかすわけでも無く。

ごく当たり前のように奥方は言う。

地球は回っているって言葉と同じくらい、あまりにも当たり前の事実と同じように。


「わらわは門川当主の正妻と成るための存在じゃ」

「・・・・・」

「そのために生まれたと父が言った」

「・・・・・」

「そのために生んだと母が言った」



天に定められた存在なのだと。

選ばれし至高の命なのだと、ふたりはわらわに言った。

華子よ、お前だけが特別なのだと。


他の花嫁候補の娘達とは、まったく違うのだと。


お前が当主の妻となるのは天の定め。

天の意思に逆らってはならない。

お前が当主の妻の座に着かねばならぬのだ。


他の娘を、妻の座に着かせてはならぬのだ。


お前が敗北する事は絶対に許されぬ。

他の一族に負ける事は、天が、この父と母が絶対に許さぬ。


天のため、神のため、世のために・・・

お前が・・・我が娘が当主の妻となるのだ。


そしてこの父に、母に、我が一族に・・・

多大なる栄華をもたらすのが、お前に課せられた絶対なる運命なのだ。