人の命運を手玉に取り、悪を生み出す者。

それを可能にできる者。

果たしてそれは、人に成し得る事なのだろうか。


ここに居るだけで、威圧される存在感。

周囲の全てを狂わせる。この女は・・・


人とは思えぬほどの、不思議なほどの妖しく暗い、強力な何かを持っている。



何ひとつ感じる事の無いような、無表情な顔。

その表面に、ムラ無く綺麗に塗られたお白粉。

口元を染める紅。

その紅い唇が動いた。


「わらわは目通りを許してはおらぬぞ。永久よ」


感情の無い声が、ただ抑揚も無く響く。


門川君は無言のまま、足を前に出した。

あたしもすぐ後に続く。


畳を滑るように歩き、部屋の真ん中に進む。

そして背筋を伸ばし、彼はスッと正座した。

手を着き、深々と頭を垂れる。


「母上、お久しゅうございます」

「去れ」

「ご無礼の段、平にご容赦下さい」

「去れ」


頭を下げたままの門川君。

奥方は扇子を広げて口元を隠し、同じ言葉を続けた。

まったく感情の見えない声で。

「・・・去れ。永久」