好きという言葉に酔いしれて、全てを許される免罪符を手に入れたと思っては、いけない。


「あたしは門川君の事が好き。だから正直、彼にあたしを好きになって欲しいと思う」

「・・・・・」

「でも、奪ってみせるだとか、お岩さんに勝利してやるとか、そういうんじゃないの」


彼が、自然にあたしを好きになってくれたら嬉しい。

そしてあたしを選んでくれたら嬉しい。

苦難や壁を乗り越えて、あたしを愛する道を選んでくれたら。


そしたら、どんなに辛くても苦しくても、あたしは彼と愛し合って生きていく。


でも、もし彼がお岩さんを選んだのなら。

あたしはその道を尊重する。

彼が考え、彼が望み、彼が下した決断を。

彼が、手に入れようとしたものを。


それらをあたしは

『彼が好きだから』という理由の凶器を振り回して、破壊してしまおうとは・・・思わない。


「どちらにしても、あたしは門川君の事が好き」

「・・・・・」

「この気持ちに変わりはないんだから・・・同じ事だよ」


お岩さんは、黙ってあたしを見ていた。

黙って話を聞いていた。

攻撃的な光は、その両目から薄れてはいたけれど。

何を考えているかまでは、読み取れなかった。