「・・・ありがとう」

お礼を言うあたしに、くつくつと笑い声をあげて秋風が答える。


「毒を与えた本人に礼を言うやつがいるか?」

「・・・・・」

「本当に愚か者ばかりだな」

「でも、やっぱり、ありがとう。あと・・・ごめんなさい」

「・・・・・」


秋風が、ゆっくりとこちらを向いた。

乱れた黒髪の隙間から、涙で濡れた顔が見える。

ぼんやりと虚ろな目だった。


「なぜ謝る?」

「え? えっと・・・」

「私を殺そうとした事か? 当然の事だろう。謝られる筋合いは無い」


そ、れは・・・そうなんだけど。


この世界はそういう世界だって、あたしは学んだ。

言ってみれば、おあいこみたいなものだ。

もちろん、それはそうなんだ。分かってる。


でも。


お兄さんや秋風の受けた心の傷。

犠牲と苦悩と慟哭。

それを思うと・・・。