その日の夕刻前に、あたし達は出発する事になった。


門川君、絹糸、あたし、しま子。

この四人だけの出発だった。


お岩さんとセバスチャンさん、そして子猫ちゃんが見送りに来てくれた。


ザワザワと波立つ胸を抱えて、あたしはずっと無言。

門川君とは、わざと離れて立った。


・・・ふと、視線を感じる。


お岩さんだ。

お岩さんが、あたしをチラチラと見てる。


でも視線を合わせると、すぐにプィッと横を向いてしまった。


なんなんだか、まったく。

まぁ、いいけど。言いたい事は分かるから。

門川君をしっかり守れって言いたいんでしょ?


言われなくても守るよ。必ず。

そのためにあたしは行くんだから。



「天内のお嬢様」

「あ、セバスチャンさん」


相変わらずの燕尾服姿のセバスチャンさんが、穏やかな笑顔で話しかけてきた。


「どうぞ、くれぐれもお気をつけて下さいませ」

「うん。ありがとう」

「永久様をお守りください。そして・・・」

「?」

「どうか御自身も、お大事にして頂きとう存じます」


セバスチャンさんの目は、黒く澄み切っていた。


優しい、落ち着いた大人の微笑をたたえていた。