「陽菜」
誰かが呼んでる。
目を開けなくちゃと思うのに、まぶたは重くて。
「陽菜」
誰かが、わたしの腕を取る。
「陽菜」
もう一度呼ばれて、ようやく、わたしは目を開けることができた。
「……ママ」
声がかすれている。
息苦しい。
「起こしてごめんね」
「ううん。病院は?」
わたしの病院のことじゃない。
ママの仕事場のこと。
ママはお医者さんだから。
休みは不定期。
土日だっていないことが多いし、たまの休みでも呼び出されたら飛んで行く。
「今日は休み」
「……そう」
そのまま、また目を閉じると、ママがわたしのほっぺたに触った。
暖かい手のひら。
「陽菜。寝ないで。薬飲まなきゃ」
「あ、……そっか」
ママがわたしの身体を抱き起こそうと、背中に手を入れた。
ぐいっと背中が起こされる。
相変わらず、力持ちだなぁ、ママ。
もう、わたし、小さな子どもじゃないのに。
渡されるままに、薬を飲んで、また横になる。
意識が途切れる前、ママが点滴の用意をしているのが見えた。
親がお医者さんだと、こういう時、便利だ……と思う。
でも、本当は、いつも一緒にいられないから、ちょっとだけ寂しいんだ。