12年目の恋物語


「え? なに? 自分ちの店?」



斎藤は、その言葉に、慌ててキョロキョロ、周りを見回した。

だけど、残念ながら、オレの親父とかお袋とかが制服着て、歩いてるわけじゃない。



「えっと、オレの親父、ここのオーナーなの」

「店長さん?」

「いや。それは別の人がやってるんだけど……」



オレがなんて説明しようか悩んでいると、志穂がサクッと口を挟んだ。



「あのね、叶太くんのお父さん、お食事処 和(なごみ)チェーンの経営者なの」

「……え?」



斎藤が目を丸くして、オレを見た。



「マジで!?」

「ああ」

「全国展開してるだろ? ここ」

「ああ、してる」

「他にも、コンビニとか、スーパーとかいろいろ、グループになかったっけ?」

「あるな」



斎藤がオレをマジマジと見る。



やめてくれ。

オレが何かしたわけじゃないんだから。



「御曹司?」



斎藤がつぶやいたその言葉に、頭を抱えたくなる。



「やめて。オレ、そう言うの、苦手」



だったら、親の店で飲み食いすんな?



「や、でもさ、親の店での飲み食いは自由、なんだろ?」



お坊ちゃんじゃん、と斎藤に言われて、頭を抱えたくなる。

誰、それ。背中がむずむずする。



「ってか、どうせ金を払うなら、うちの店にしろって言われてんだよ。

で、友だち家に連れてくるのと同じだから、おごれって」



オレの言い訳を聞いて、斎藤はほうっと息を吐いた。



「なるほどなぁ~」

「そう。むしろ、友だちと入って、払わせるなんてあり得ないって言われてんだよ」

「豪気な親父さんだな」

「ああ」



こっそり破っても、なぜかバレる。

で、こってり叱られる……くらいじゃ済まなくて、逆に小遣いを減らされたりするんだ。



だから、正直、オレの家のこと知らないヤツと店に来たくないし、家のこと知ってて媚びてくるようなヤツとも付き合いたくない。

たかられるのも、ゴメンだ。



そう言う意味で、もしかしたら、うまく親父にコントロールされているのかもしれない。

友だちを選ぶ目が、自然と厳しくなり、変なヤツには近づかない処世術が、自然と身についたのだから。