「え? なに? 自分ちの店?」
斎藤は、その言葉に、慌ててキョロキョロ、周りを見回した。
だけど、残念ながら、オレの親父とかお袋とかが制服着て、歩いてるわけじゃない。
「えっと、オレの親父、ここのオーナーなの」
「店長さん?」
「いや。それは別の人がやってるんだけど……」
オレがなんて説明しようか悩んでいると、志穂がサクッと口を挟んだ。
「あのね、叶太くんのお父さん、お食事処 和(なごみ)チェーンの経営者なの」
「……え?」
斎藤が目を丸くして、オレを見た。
「マジで!?」
「ああ」
「全国展開してるだろ? ここ」
「ああ、してる」
「他にも、コンビニとか、スーパーとかいろいろ、グループになかったっけ?」
「あるな」
斎藤がオレをマジマジと見る。
やめてくれ。
オレが何かしたわけじゃないんだから。
「御曹司?」
斎藤がつぶやいたその言葉に、頭を抱えたくなる。
「やめて。オレ、そう言うの、苦手」
だったら、親の店で飲み食いすんな?
「や、でもさ、親の店での飲み食いは自由、なんだろ?」
お坊ちゃんじゃん、と斎藤に言われて、頭を抱えたくなる。
誰、それ。背中がむずむずする。
「ってか、どうせ金を払うなら、うちの店にしろって言われてんだよ。
で、友だち家に連れてくるのと同じだから、おごれって」
オレの言い訳を聞いて、斎藤はほうっと息を吐いた。
「なるほどなぁ~」
「そう。むしろ、友だちと入って、払わせるなんてあり得ないって言われてんだよ」
「豪気な親父さんだな」
「ああ」
こっそり破っても、なぜかバレる。
で、こってり叱られる……くらいじゃ済まなくて、逆に小遣いを減らされたりするんだ。
だから、正直、オレの家のこと知らないヤツと店に来たくないし、家のこと知ってて媚びてくるようなヤツとも付き合いたくない。
たかられるのも、ゴメンだ。
そう言う意味で、もしかしたら、うまく親父にコントロールされているのかもしれない。
友だちを選ぶ目が、自然と厳しくなり、変なヤツには近づかない処世術が、自然と身についたのだから。



