放課後の体育館。
「こら! 真衣! よそ見しない!」
先輩の怒声が響き渡る。
田尻真衣が慌てて、
「すみません!」
と頭を下げた。
練習の合間に、同じくバスケ部の真衣が、何かを気にするように、チラチラ見ていたのには、気づいていた。
それが、いったい何なのか、気になって見ると、そこには彼方くんがいた。
わたしに気が付くと、笑ってヒラヒラ手を振ってくる。
……あれか。
目立たないよう、視線だけ合わせて、笑顔を見せた。
真衣は、叶太くんが好きだ。
陽菜がいるから、できるだけ顔に出さないように、態度に出さないようにと、努力しているらしい。
だけど、長く一緒にいれば、見えてしまうモノもある。
直接、本人から聞いたことはないけど、分かってしまった。
でも、もちろん、叶太くんは、真衣の気持ちになど、気づきもしない。
陽菜に夢中で、他の女の子の方なんて、見ようと思ったこともないと思う。



