羽鳥先輩は、わたしの言葉を待っていた。
でも、歩けない。
カナ以外の人とは……。
歩けない。
「……あの、」
わたしが絞り出すように声を出すと、先輩は、いつものように優しく目を細めた。
「やっぱり、ハルちゃんの悩みは、その辺りかな?」
「え?」
「ごめんね。カマかけちゃった」
……羽鳥先輩?
先輩は、不意に、わたしの頬に手をふれた。
「ハルちゃん、やせたよね」
「え?」
「食欲、ない?」
ここ1ヶ月、何を食べても、味がしない。
食欲もなくて、体重も減ってしまった。
「ずっと、悩んでたでしょ?」
「……あの」
「いつでも、聞くよ?」
先輩は、何かを探すようにポケットに手を入れた。
それから、しゃがんで、まだベンチに座っていた、わたしに目線を合わせた。
膝の上で握りしめていた手を取られ、上を向けられ……。
「はい」
手のひらにコロンと載せられたのは、ミルキー3つ。
「これくらいなら、食べられるでしょう?」
「え?」
先輩は、うーん、どうしようかな、とつぶやき、
わたしの手のひらから、ミルキーを1つ取ると、きゅっと両端を引いた。
「口開けて」
思わず、反射的に口を開けると、先輩はポンとわたしの口にミルキーを放置込む。
次の瞬間、懐かしい甘い味が、口の中にふわっと広がった。



