12年目の恋物語


羽鳥先輩は、わたしの言葉を待っていた。



でも、歩けない。



カナ以外の人とは……。



歩けない。




「……あの、」




わたしが絞り出すように声を出すと、先輩は、いつものように優しく目を細めた。



「やっぱり、ハルちゃんの悩みは、その辺りかな?」

「え?」

「ごめんね。カマかけちゃった」



……羽鳥先輩?

先輩は、不意に、わたしの頬に手をふれた。



「ハルちゃん、やせたよね」

「え?」

「食欲、ない?」



ここ1ヶ月、何を食べても、味がしない。

食欲もなくて、体重も減ってしまった。



「ずっと、悩んでたでしょ?」

「……あの」

「いつでも、聞くよ?」



先輩は、何かを探すようにポケットに手を入れた。



それから、しゃがんで、まだベンチに座っていた、わたしに目線を合わせた。

膝の上で握りしめていた手を取られ、上を向けられ……。



「はい」



手のひらにコロンと載せられたのは、ミルキー3つ。



「これくらいなら、食べられるでしょう?」

「え?」



先輩は、うーん、どうしようかな、とつぶやき、

わたしの手のひらから、ミルキーを1つ取ると、きゅっと両端を引いた。



「口開けて」



思わず、反射的に口を開けると、先輩はポンとわたしの口にミルキーを放置込む。



次の瞬間、懐かしい甘い味が、口の中にふわっと広がった。