12年目の恋物語


羽鳥先輩は、ずっと隣に座っていてくれた。



何も言わず。

ただ、隣にいてくれた。



いつしか、涙が止まっていた。

それでも、わたしは、先輩にもらったお茶を手にしたまま、

空を見て、木々を見て、雨を見て、

何も考えず、何もしゃべらず、

ただ時が流れるのに、身を任せた。





どれくらい経ったのだろう。

もともと、薄暗かった空が、更に暗くなっていた。



時計を見ると、5時。



「そろそろ、帰った方がいいかな?」



先輩も、腕時計に目をやる。



「ごめんなさい。すっかり、遅くなっちゃった」



先輩は、また優しく笑う。



「ボクのことは、気にしなくていいよ」



それより、と先輩は続けた。



「ハルちゃんは、ご家族が心配するんじゃない?」

「大丈夫です。……あの、図書館に寄るって、電話したから」



カナと歩きたくなくて、言い訳のように図書館を使った。



「そうか。でも、そろそろ帰った方がいいよね」

「はい」



先輩の言葉に、小さくうなずく。



「家に電話する?」

「いえ。もう、迎え、来てると思うから」



そう言うと、先輩はすっと立ち上がった。



「車まで、送ろうか」



瞬間、身体が固まった。



暖かかった空気が、急に冷え込み、現実世界に戻されたような。



冷や水を浴びせかけられたような。



そんな、気持ちにおそわれた。