羽鳥先輩は、ずっと隣に座っていてくれた。
何も言わず。
ただ、隣にいてくれた。
いつしか、涙が止まっていた。
それでも、わたしは、先輩にもらったお茶を手にしたまま、
空を見て、木々を見て、雨を見て、
何も考えず、何もしゃべらず、
ただ時が流れるのに、身を任せた。
どれくらい経ったのだろう。
もともと、薄暗かった空が、更に暗くなっていた。
時計を見ると、5時。
「そろそろ、帰った方がいいかな?」
先輩も、腕時計に目をやる。
「ごめんなさい。すっかり、遅くなっちゃった」
先輩は、また優しく笑う。
「ボクのことは、気にしなくていいよ」
それより、と先輩は続けた。
「ハルちゃんは、ご家族が心配するんじゃない?」
「大丈夫です。……あの、図書館に寄るって、電話したから」
カナと歩きたくなくて、言い訳のように図書館を使った。
「そうか。でも、そろそろ帰った方がいいよね」
「はい」
先輩の言葉に、小さくうなずく。
「家に電話する?」
「いえ。もう、迎え、来てると思うから」
そう言うと、先輩はすっと立ち上がった。
「車まで、送ろうか」
瞬間、身体が固まった。
暖かかった空気が、急に冷え込み、現実世界に戻されたような。
冷や水を浴びせかけられたような。
そんな、気持ちにおそわれた。