「羽鳥先輩」



先輩は、いつものように、優しくにっこり笑う。

暗かった辺りが、急に明るくなったような気がした。



肩の力が、すうっと抜けた。



「ごめんね。邪魔しちゃったかな?」

「いえ!」



思わず、大きな声がでる。



「ぜんぜん邪魔じゃ、ありません」



自然とこぼれる言葉は、紛れもない本心だった。



先輩は、くすりと笑った。



「ありがとう。じゃあ、お邪魔させてもらうお礼に、いいモノをあげよう」



そうして、ポケットに手を入れると、わたしの目の前に、小さなお茶の缶を差し出した。



「え?」

「暖かいよ」



先輩は、早く手を出しなさい、というように缶を軽く揺する。



「あの……」

「今日、梅雨冷えだよね。寒いから、ね」



優しい笑顔につられて、受け取ったお茶は、とても暖かかった。

両手でお茶を包み込むようにして持つ。



そうして、ようやく、自分がこごえていたことに気が付いた。



いつの間にか、涙がこぼれ、先輩がわたしの頭を優しくなでた。