数秒、呆然と立ち尽くした後、慌てて振り返ると、羽鳥先輩は廊下の角を曲がるところだった。



チラリとこちらを見て、

先輩はニコリと爽やかな笑顔を見せ、

オレに軽く手を上げ、

そのまま見えなくなった。



さ、爽やかすぎだろ……。



これで、学年トップの秀才。



細身で、背の高さはオレと同じくらい。

ピンと伸びた背筋、品が良い身のこなし。

見るからに、頭が良さそうで……。



こう言うタイプを好きな女の子も多いだろう。



多分、羽鳥先輩はモテルに違いない。



反対に、オレは、頭はまるっきり凡人。

万年平均点。

だけど、身体はガッチリ鍛えてある。



羽鳥先輩とは、明らかにタイプが違う。



自分で言うのもなんだけど、オレだって素材は悪くないと思う。

平日の朝は走り込み、週末は道場に通って空手をする。



運動部に入ると、ハルとの時間が減るし、文化部には興味がないから、帰宅部。

だけど、大切な女の子を守るには、やっぱり腕力は必要だ。



だから、小学生の頃から、気合いを入れて鍛えてきた。



そうするモンだって思ってた。




けど、

もしかして、それは、大間違いだったのか!?



ハル!!



ハルは、羽鳥先輩みたいな頭が良い人が好きなのか!?





「そりゃ、お前、他に好きな男ができたんだろ?」





呪いのように、兄貴の言葉が頭の中でこだまする。




違う!!

違う!!

違う!!




繰り返し、兄貴の言葉を否定しながらも、オレは何をよりどころにして良いのか、分からなくなってきた。