羽鳥先輩は、図書館を出ると建物の裏手へと回った。
「ここ、落ち着くでしょ?」
見ると、壁際に木製の古いベンチが並べられていた。
だけど、誰もいない。
大きな木が風に揺れてサワサワと葉ずれの音を立てる。
夕方の少し傾いた日に照らされたその場所は、とても綺麗だった。
「ここで人に会ったことないんだ。穴場だよ」
そう言って、羽鳥先輩は、先にベンチに座り、隣をトントンと手のひらで叩いた。
「ハルちゃんも座って座って」
そう言われて、わたしは先輩の隣に、そっと腰を下ろした。
先輩は、むやみに話しかけてきたりしない。
並んで、木漏れ日を眺めた。
うんと遠くから、運動部の人たちの声が聞こえてくる。
そよ風が頬をなでる。
どれくらい、ぼんやりしていただろう?
「……で、ハルちゃんは何を悩んでるの?」
何気ない口調で問われて、わたしは言葉に詰まった。
「……あの、」
カナのこと、話してしまいたい気持ちと、
こんなことは誰にも話せないという気持ちが、
わたしの中でせめぎ合う。
羽鳥先輩は、そんなわたしの気持ちを見抜いたのか、ふっと笑った。
「いいよ。無理に話すことはないからね」
わたしがまだ何も言えずにいると、
「だけど、もし話したくなったら、話せばいい。
ボクはそのために、ここにいるんだから」
羽鳥先輩は、わたしの背中をぽんぽんと優しく叩いた。



