12年目の恋物語


羽鳥先輩は、図書館を出ると建物の裏手へと回った。



「ここ、落ち着くでしょ?」



見ると、壁際に木製の古いベンチが並べられていた。



だけど、誰もいない。



大きな木が風に揺れてサワサワと葉ずれの音を立てる。

夕方の少し傾いた日に照らされたその場所は、とても綺麗だった。



「ここで人に会ったことないんだ。穴場だよ」



そう言って、羽鳥先輩は、先にベンチに座り、隣をトントンと手のひらで叩いた。



「ハルちゃんも座って座って」



そう言われて、わたしは先輩の隣に、そっと腰を下ろした。

先輩は、むやみに話しかけてきたりしない。



並んで、木漏れ日を眺めた。

うんと遠くから、運動部の人たちの声が聞こえてくる。

そよ風が頬をなでる。



どれくらい、ぼんやりしていただろう?



「……で、ハルちゃんは何を悩んでるの?」



何気ない口調で問われて、わたしは言葉に詰まった。



「……あの、」



カナのこと、話してしまいたい気持ちと、

こんなことは誰にも話せないという気持ちが、

わたしの中でせめぎ合う。



羽鳥先輩は、そんなわたしの気持ちを見抜いたのか、ふっと笑った。



「いいよ。無理に話すことはないからね」



わたしがまだ何も言えずにいると、



「だけど、もし話したくなったら、話せばいい。

ボクはそのために、ここにいるんだから」



羽鳥先輩は、わたしの背中をぽんぽんと優しく叩いた。