「ハル、……ハル」
名を呼ぶ声に、急激に意識が覚醒する。
あ。……夢。
涙が頬を伝い、枕をぬらしていた。
ボーッと目を開けると、保健室のベッドを囲むカーテンが見えた。
うかつにも教室で泣いてしまい、体調が悪いわけでもないのに、保健室に連れてこられた。
わたしが保健室の住人になるのは、しょっちゅうで、だから、先生も疑いもせず、ベッドに寝かせてくれた。
すぐに授業に戻ろうと思っていたのに、気がついたら、眠っていたらしい。
「ごめん、起こして。なんか、ハル、泣いてたから、悪い夢でも見てるのかと思って」
カナの手が見えた。
大きな、男の子らしい、ゴツゴツした手。
見慣れたカナの手。
カナはハンカチで、そっと、わたしの涙を拭う。
「……カナ」
「ん? どうした? 大丈夫?」
カナだったんだね。
あの時の男の子。
田尻さんに話を聞いても、実のところ、ピンと来てなかった。
今になって、ようやく、カナの気持ちが、理解できた気がする。
「ハル?」
責任を感じてるんだ、カナは。
自分のせいで、わたしが死にかけたって。
でも、違う。
カナのせいじゃない。
だって、わたし、知っていたもの。
走っちゃダメだって。
大変なことになるって。
4歳の子に、心臓病がどんなものかなんて、解るはずがない。
当事者のわたしだって、あの頃は、まだよく分かってなかった。
カナは、一緒に走ろうって、ゴールテープを持って、わたしを誘っただけ。
ただ、それだけ。



