それから、BGMがゆったりした、綺麗な曲調のピアノ曲に変わった。
なんだっけ、って思っていると、陽菜がつぶやいた。
「……愛の夢?」
そうして、叶太くんからのラブレターの朗読が始まった。
◆ ◆ ◆
ハル。
ハルと出会ってから、丸11年が経ち、12年目がはじまったね。
オレがハルと出会ったのは、オレたちが4歳のとき。
ハルんちは、ハルの入園に合わせて、牧村のじいちゃんちの裏に家を建てて、引っ越してきて、だけど、隣の家なのに、ハルと初めて会ったのは、幼稚園でだった。
小さなハルが年中さんの部屋にいるのを見て、ピカピカの名札と制服を見て、オレ、年少さんの新入園児だと思って、うっかり、ハルの手を引いて、年少さんの部屋に送っていった。
覚えてるかな?
小さくて可愛いなってのが、最初の印象。
それから、オレはハルと一緒に遊びたくて、いっぱい、ちょっかいかけたよね。ハルはいつもニコニコして、楽しそうだった。
だから、オレ、5月の運動会の練習してたとき、ハルと一緒に走りたくて、ハルを誘ってしまった。
ハルは走って、それから心臓の発作を起こして、倒れて、救急車で運ばれた。
オレ、驚いてさ。本当に、そんなことになるとは思ってなかった。
ハルちゃんは走れないんだって先生が言ってたけど、気にもしてなかった。ひどいよな。
◆ ◆ ◆
叶太くんの声が、丁寧に言葉を綴る。
陽菜は、今も、大きなスピーカーを見上げていた。
そこに、叶太くんがいるわけじゃないのに。
同じ教室に、叶太くんがいるのに。
クラスの人の半数は叶太くんを見て、半数は陽菜を見ていた。
そして、全員が、耳を澄ませて、スピーカーから流れる叶太くんの声を聞いていた。



