「正直言ってね、ボクだって、乗り気じゃないし、やりたくてやってるわけじゃない」
そりゃ、そうだ。
「ボクにもつけいる隙があるってことかな?」の羽鳥先輩なんだから。
「はい」
90度に頭を下げたまま、返事をする。
「ボクがハルちゃんをもらったって、いいんだよ」
「せ、先輩!!」
慌てて顔を上げると、先輩に言われた。
「キミには、隙がありすぎだ。それは、魅力でもあり、短所でもある」
説教モード!?
先輩は、座りなさいとばかりにイスを指さし、自分も座った。
「広瀬くん、キミは知ってるかな?
チャンスの神様には、前髪しかないんだよ。
やらなきゃどうなるとか、やったらどうなるとか、のんびり考えている間に、チャンスは逃げていくぞ」
チャンスの神様。
どこかで聞いたことがある。
親父だったか、ハルの父さんだったか……。
そんな大人が話すようなことが、一つ上の先輩の口から出てくることが、不思議だった。
この人には、とても勝てない。
逆らっちゃダメだ、味方になってくれるというのなら、すがりついてでも助けてもらった方がいい。
……たぶん。
とにかく、オレ、もう、今のままはイヤなんだ。
ハルに会えないのも、泣かれるのも、イヤなんだ。
怯えられるなんて、もってのほかで、
それを何とかする手段を羽鳥先輩が持っているのなら、
オレは死に物狂いで教えてもらうべきで。
ハルに会いたい。
ハルの声を聞きたい。
ハルの笑顔が見たい。
「申し訳ありませんでした」
オレはもう一度、頭を下げた。
次に顔を上げると、先輩は笑って、「よし」と、小さくうなずいてくれた。



