午後。

次は数学か、こりゃ眠いぞ~とか考えていると、

ハルの友だち、寺本志穂(てらもとしほ)がやってきた。



「叶太くん、今日、陽菜んち、行く?」



初等部、中等部も一緒だったから、オレもよく知っている。

サバサバした気持ちのいいヤツ。



「ああ、行くよ」



ハルが休んだ日は、必ず、見舞いに行くことにしている。

プリント、宿題、ノート、届ける物はいくらでもある。



いや、何もなくても、行くのだけど。

顔を見たいし、声だって聞きたいし。

それに、何しろ、隣の家に住んでいるのだ。



「じゃあ、これ、渡しといて」



と手渡されたのは、カバーのかかった文庫本。



「……本?」



ハルは確かに本好きだけど、志穂が本を読んでいるところなんて、見たこともない。

もちろん、過去、見舞いに本を持って行くよう頼まれたこともない。



「失礼な」



志穂が笑いながら言う。



「……なにが?」

「顔に書いてあるわよ。おまえ、本なんか読むの、って」



志穂がカラカラっと笑う。



「……いや、そんなことは」



言い訳しようとしたら、志穂が遮った。



「いいの、いいの。ホントのことだから。これは、羽鳥先輩から」

「羽鳥先輩?」



って、誰?

お見舞い?

え!? まさか、男!?



「図書委員の羽鳥先輩。委員会で会ったときに預かったの」



そう言う志穂は、図書委員だ。

本も読まないのに図書委員。

立候補がいなくて、くじで決まった。

本好きのハルは、



「わたしがやりたかったな」



と残念がっていた。

委員を決める日が、ハルの入学一回目の病欠だったのだから仕方ない。



「陽菜に渡せば分かるって」



オレの狼狽を知ってか知らずか、志穂はニヤニヤ笑う。

そうして、文庫本でオレの頭をポンと叩くと、机の上にそれを置いて行ってしまった。