「おい、広瀬、チャイム鳴ったぞ」



斎藤が、オレの肩をトンと叩いた。



「……んあ?」



思わず間抜けな声を漏らすと、斎藤は呆れたように肩をすくめた。



「まあ、おまえのハルちゃん狂いは、入学した瞬間から聞き及んでたけどな」



オレのハル狂い?

失礼な。

ハルが世界一大切で、それを態度で現してるだけじゃないか。



「てか、ホント、そろそろ自分の席に戻れよ、担任来るぞ」

「ああ」



ようやく、オレは斎藤の隣の席を立ち、2つ前の自席に戻った。



「あ、そう言えば、牧村、今日、休み?」



思い出したように、斎藤が聞く。

斎藤が「ハルちゃん」と言うのは、オレをからかう時だけだ。

普段は名字で呼ぶ。



「そう。熱出したって」

「ホント、病弱なんだな」



斎藤がボソッと呟いた。



斎藤の隣、つまり、オレがさっきまで座っていたのは、ハルの席だ。

4月に入学してから、ハルが休むのは2回目。

ホント、と言ったのは、ハルが病弱なこと、オレがそんなハルのナイトだなんだと、入学早々騒がれていたからに違いない。

ハルは戸惑っていたけど、オレはハルが他の男にちょっかいかけられるくらいなら、公認カップルと言われてからかわれる方がいい。



そんなことを考えていると、ガラガラっとドアが開き、担任が入ってきた。