「どこがいいかしら?」
促されるままに保健室を出た。
田尻さんは、キョロキョロと辺りを見回す。
「そこから、外に出ようか」
田尻さんが指さしたのは、校舎の裏に続くドア。
その向こうにあるのは、4月、呼び出されて連れて行かれたのと、同じ場所。
イヤだ。
行きたくない!!
だけど、田尻さんは、わたしの気持ちなんて置き去りで、どんどん歩いて行ってしまう。
このまま、逃げ出したい。
だけど、たまに、振り返る田尻さんの目は、逃げることなんてゆるさないと、語っていた。
わたしは走れないから、
だから、今、逃げ出しても、追いつかれる。
話したくないって、言っても、きっと、ゆるしてなんかくれない。
田尻さんの鋭い視線から、それが、よく分かった。
4月、最後の日。
よく晴れた、いいお天気だった。
呼び出されて、なんの話かしら、なんて、のんきに出かけて行ったわたし。
外に出ると、青い空が見えて、
空気はとても澄んでいて気持ちよくて。
なのに、そこで聞かされたのは、思いもかけない話で……。
わたしの心は、凍り付いた。
「叶太くんを解放してあげて!」
「いつまで、縛り付けるの!?」
「叶太くんが、なんで、あなたのことを、あんなに世話を焼いていると思ってるの!?」
「叶太くんが、なんで、あなたに優しいと思ってるの!」
「あなたの身体のこと、責任を感じているんじゃない!!」
田尻さんの言葉が、脳裏に浮かんでは消える。
現実を突きつけられたあの日から、
もう、ずっと笑っていない気がした。