12年目の恋物語


ずいぶん、長い沈黙の後、わたしは意を決して声を上げた。



とにかく、行動あるのみだって、自分を奮い立たせて。

先輩の目を真っ直ぐ見て、言った。



「あの、……陽菜が、すごく悩んでるみたいで」



先輩の顔が、その瞬間、少し辛そうにゆがんだ。



「ああ」



先輩も、やっぱり知ってるんだ。

陽菜が何かに苦しんでること。



「わたしたち、陽菜が、何に悩んでいるのか分からなくて。それで……」



言いよどむと、先輩が後を継いでくれた。



「ボクに聞きに来たわけだ?」

「はい」



先輩は、非常階段の手すりにもたれて腕を組んだ。



難しい表情。

笑顔より、きっと、こっちが本当の羽鳥先輩。

そんな思いと、

陽菜には、きっと、こんな顔は見せないんだろうな、

そんな思いが、

同時に浮かび上がってきた。



「何が知りたいの?」



「何を知ってるんですか!?」



考える間もないくらい、すぐに聞き返すと、先輩は、あははと楽しそうに笑った。



「キミは、素直だねぇ」



その笑顔は、穏やかでも優等生的でも優しそうでもないけど、

やけに魅力的だった。