ずいぶん、長い沈黙の後、わたしは意を決して声を上げた。
とにかく、行動あるのみだって、自分を奮い立たせて。
先輩の目を真っ直ぐ見て、言った。
「あの、……陽菜が、すごく悩んでるみたいで」
先輩の顔が、その瞬間、少し辛そうにゆがんだ。
「ああ」
先輩も、やっぱり知ってるんだ。
陽菜が何かに苦しんでること。
「わたしたち、陽菜が、何に悩んでいるのか分からなくて。それで……」
言いよどむと、先輩が後を継いでくれた。
「ボクに聞きに来たわけだ?」
「はい」
先輩は、非常階段の手すりにもたれて腕を組んだ。
難しい表情。
笑顔より、きっと、こっちが本当の羽鳥先輩。
そんな思いと、
陽菜には、きっと、こんな顔は見せないんだろうな、
そんな思いが、
同時に浮かび上がってきた。
「何が知りたいの?」
「何を知ってるんですか!?」
考える間もないくらい、すぐに聞き返すと、先輩は、あははと楽しそうに笑った。
「キミは、素直だねぇ」
その笑顔は、穏やかでも優等生的でも優しそうでもないけど、
やけに魅力的だった。



