12年目の恋物語


非常ドアを開けると、強い風が吹き抜けた。



先輩の後に着いて外に出ながら、わたしの頭の中では、先輩の「ハルちゃん」という声がこだましていた。



ハルちゃんて、呼んでるんだ。

ハルちゃん、って。



たった、それだけのことなのに、わたしは、かなり動揺していた。

クラスの男子でも、そう呼ぶ子はいる。

特に、初等部、中等部で一緒だったりしたら、それは割と当たり前で。



だけど……



「で、どういう話かな?」



羽鳥先輩の目が、あんまり優しくって。

「ハルちゃん」って、呼んだときの声が、あんまり優しくって。

いつもの、何を考えてるのか分からないって思ってた先輩とは、ぜんぜん違っていて。

羽鳥先輩も、陽菜のことを好きなんだって、その気持ちが、分かっちゃって。



「寺本さん? 昼休み、終わっちゃうよ」



先輩は、固まるわたしを、腕時計を見るフリをしてうながす。

そんなに、すぐに時間は過ぎない。

分かっていて、さり気なくかけられるプレッシャー。

見た目は、穏やかな笑顔だけど、心から笑っていない。

「ハルちゃん」と、陽菜の名を呼んだときとは、まるで別人。



たぶん、先輩が優しい目をするのは、陽菜にだけだ。



そんな気がした。



叶太くん、ごめん。



ダメかも知れない。



わたしじゃ、ダメかも知れない。