非常ドアを開けると、強い風が吹き抜けた。
先輩の後に着いて外に出ながら、わたしの頭の中では、先輩の「ハルちゃん」という声がこだましていた。
ハルちゃんて、呼んでるんだ。
ハルちゃん、って。
たった、それだけのことなのに、わたしは、かなり動揺していた。
クラスの男子でも、そう呼ぶ子はいる。
特に、初等部、中等部で一緒だったりしたら、それは割と当たり前で。
だけど……
「で、どういう話かな?」
羽鳥先輩の目が、あんまり優しくって。
「ハルちゃん」って、呼んだときの声が、あんまり優しくって。
いつもの、何を考えてるのか分からないって思ってた先輩とは、ぜんぜん違っていて。
羽鳥先輩も、陽菜のことを好きなんだって、その気持ちが、分かっちゃって。
「寺本さん? 昼休み、終わっちゃうよ」
先輩は、固まるわたしを、腕時計を見るフリをしてうながす。
そんなに、すぐに時間は過ぎない。
分かっていて、さり気なくかけられるプレッシャー。
見た目は、穏やかな笑顔だけど、心から笑っていない。
「ハルちゃん」と、陽菜の名を呼んだときとは、まるで別人。
たぶん、先輩が優しい目をするのは、陽菜にだけだ。
そんな気がした。
叶太くん、ごめん。
ダメかも知れない。
わたしじゃ、ダメかも知れない。



