12年目の恋物語


羽鳥先輩は、ちょうど教室から出てきたところだった。



「あれ? 寺本さん。誰に用? 呼ぼうか?」



先輩は、メガネの向こうの切れ長の目に、親切そうな笑顔を浮かべ、出てきたばかりの教室に顔を向けた。



「あ、いえ」



教室の出入り口。

早々に食べ終わった人たちが外に出て、

出遅れたのか、今頃、パンを手に持った人たちが中に入る。

何人もの上級生。

やっぱり、1年とは雰囲気が違う。

大人っぽい。



なんて、言おう?



迷ったのは一瞬だった。



「あの! 羽鳥先輩に用事です!」



先輩の目をまっすぐ見上げて言う。

先輩は、軽く首を傾げ、

通りがかった男子の先輩が、「お? 告白?」とからかうように言い、

教室の中からは、女子の先輩たちの視線が飛んできた。

だけど、先輩は動揺一つせずに、



「そういうのじゃ、ないよね」



と笑った。



それから、数秒の間の後、先輩は、



「ハルちゃんのことかな?」



優しい微笑を浮かべて、そう言った。



え?

ハルちゃんって、呼んでるんだ。

牧村さん、じゃ、ないんだ。



思いがけない、親しさを見せつけられて、予想外の冷たい風に吹きさらされたような気がした。



それから、羽鳥先輩は、廊下の突き当たりを指さした。

その向こうには、非常階段。



「向こうで話そうか」