羽鳥先輩は、ちょうど教室から出てきたところだった。
「あれ? 寺本さん。誰に用? 呼ぼうか?」
先輩は、メガネの向こうの切れ長の目に、親切そうな笑顔を浮かべ、出てきたばかりの教室に顔を向けた。
「あ、いえ」
教室の出入り口。
早々に食べ終わった人たちが外に出て、
出遅れたのか、今頃、パンを手に持った人たちが中に入る。
何人もの上級生。
やっぱり、1年とは雰囲気が違う。
大人っぽい。
なんて、言おう?
迷ったのは一瞬だった。
「あの! 羽鳥先輩に用事です!」
先輩の目をまっすぐ見上げて言う。
先輩は、軽く首を傾げ、
通りがかった男子の先輩が、「お? 告白?」とからかうように言い、
教室の中からは、女子の先輩たちの視線が飛んできた。
だけど、先輩は動揺一つせずに、
「そういうのじゃ、ないよね」
と笑った。
それから、数秒の間の後、先輩は、
「ハルちゃんのことかな?」
優しい微笑を浮かべて、そう言った。
え?
ハルちゃんって、呼んでるんだ。
牧村さん、じゃ、ないんだ。
思いがけない、親しさを見せつけられて、予想外の冷たい風に吹きさらされたような気がした。
それから、羽鳥先輩は、廊下の突き当たりを指さした。
その向こうには、非常階段。
「向こうで話そうか」



