「……え?」



寺本が、その言葉に驚いたような声を上げた。



「ハル、な。生まれたとき、1年、生きられないって言われたんだって」



重苦しい沈黙が流れる。



「1歳になったとき、よく頑張ったけど、3年はムリだって言われて」



ぽつりぽつりと、広瀬が語る。



「3歳になったとき、10歳までって言われて」



語られる言葉の重さに耐えかねたように、寺本が口を挟んだ。



「なんで、叶太くんが、そんなこと知ってるのよ!」



確かに。

幾ら、家が隣、10数年来の幼なじみだからって……。



「ん? 大人ってさ、口軽いんだよな」



広瀬が寂しそうに言った。



「さすがに、親は言わないよ」



広瀬は、オレを見て、困ったような表情を見せた。



「でもさ、オレんちも、ハルんちも、お手伝いさんいるじゃん?

仲良くてさ、で、口、軽いんだよな」



広瀬は、そのまま、握りしめた自分の拳に目を落とした。



「そりゃ、あの人たちだって、親の前じゃ言わないよ?

だけど、子どものオレが側にいても、けっこう平気で話すんだよ。

ハルがまた熱出したとか、そんなん、可愛いもんだけど。

また発作起こして、あ……危ないらしい、とか、……そんな話も」



広瀬が、両手で頭を抱え込んだ。



「で、でも! もう、陽菜、15歳じゃん!」



たまりかねたように寺本が叫んで、

広瀬が、頭を抱え込んだまま、それに答えた。



「10歳のとき、もう大丈夫かも知れないって言われて、

だけど、中1の冬、12歳のとき、また倒れて……」



寺本が、あ、と小さな声を上げた。



「……それ、覚えてる」



「おまえ、知らないだろ?

あのときだって、ホント、心臓、何回も止まって、」



広瀬は、それ以上、何も言わなかった。



後は、言葉にならなかった。