広瀬は下を向いて、動かず、そして、すぐには答えなかった。
10秒、20秒と時間が経ち、
1分、2分と時間が経ち、
もう、何も言わないのかと思った頃、
広瀬は、ポツリと言った。
「ハルに幸せになって欲しい」
オレは何も言えなかった。
寺本も何も言わなかった。
「オレが、幸せなハルの隣にいたかったけど……」
広瀬はテーブルの上にあった拳をギュッと握りしめた。
「オレが、ハルを幸せにしたかったけど……」
また、長い沈黙の時が流れる。
「もし、ハルの幸せがオレの隣にないなら、それでもいい」
広瀬は、肘をついて、両手の指を組み、それを額に押し当てた。
「ハルが笑っていてくれるなら、他のヤツの隣でも、いい」



