12年目の恋物語


広瀬は下を向いて、動かず、そして、すぐには答えなかった。



10秒、20秒と時間が経ち、



1分、2分と時間が経ち、



もう、何も言わないのかと思った頃、



広瀬は、ポツリと言った。



「ハルに幸せになって欲しい」



オレは何も言えなかった。

寺本も何も言わなかった。



「オレが、幸せなハルの隣にいたかったけど……」



広瀬はテーブルの上にあった拳をギュッと握りしめた。



「オレが、ハルを幸せにしたかったけど……」



また、長い沈黙の時が流れる。



「もし、ハルの幸せがオレの隣にないなら、それでもいい」



広瀬は、肘をついて、両手の指を組み、それを額に押し当てた。



「ハルが笑っていてくれるなら、他のヤツの隣でも、いい」