放課後の生徒指導室は、静まり返っていた。

他の先生は誰もいなくて、奥のソファしかない部屋に案内された。



クラスの男子がタバコを吸っているのがバレたとき、ここで喜多先生に説教されたと言っていた。

私は何を怒られるのだろう。


この髪?

このスカート?

生意気な態度?



茶色い革張りのソファ。

本棚にはたくさんの難しそうな本。

本棚の一番上の段には、私が生まれるずっと前からの卒業アルバムが一年ごとに綺麗に並んでいた。


「能見!お前はコーヒー飲める?」


怒られる覚悟でここへ来たのに、先生は案外優しい声だった。

拍子抜けした私は調子に乗ってソファの上で軽く弾んだ。


「何、楽しそうにしてんだよ!ここはそういう部屋じゃない。コーヒー飲めるのか?」


先生は、困ったように溜息をつきながら、インスタントのコーヒーを私に見せた。



高校2年生。

大人ぶりたい年頃。


コーヒーはまだ好きにはなれなかった。

苦くて、大人の味がした。


私はまだ子供で、甘いミルクティーしか飲めない。



「当たり前じゃん。コーヒー、砂糖なしで…」



強がってブラックコーヒーを口にした。



「にがっ!!」


口に入れた途端に、口中が苦くてたまらなくなった。



「お前、飲めないんだろ?実は俺も…」


喜多先生は私を馬鹿にするどころか、甘いシロップを冷蔵庫から出してくれた。