注がれるお湯に比例して、カップの中は黒く染まってゆく。 香ばしい匂いが鼻を掠めて、何だか心が落ち着くから不思議。 彼も、コーヒーのそんな所が好きなのかもしれない。 「…よしっ」 ブラックコーヒーが好きな彼。 ミルクや砂糖は入れず、スプーンと共にカップの横に添えて、彼の部屋へ運んで行く。 彼の部屋の前。片手でおぼんを持ち、もう片方でドアをノックする。 「どうぞ」 「失礼します」 彼からの返事を確認し、そっと音を立てないように中へと入る。 歩くたびに、カップの中のコーヒーが揺れる。