*
「うーん、窓……ってわけじゃないのか、これ」
太く四角い木材で隔離された部屋で何に使うかわからない調度品――膝の高さくらいのそれを抑えさせられている少年は上から降ってくる声にいい加減げんなりしながら答える。
「欄間っていうものだって、読んだことあるよ。どこかの国の古くからある様式だって」
「そっか。……壊すのは手間だね、一枚板で彫られてる。いい仕事してるわ。ったく」
足枷のついた細い素足。その指先だけで全体のバランスを取っていた彼女は断念したようにその調度品からひょいと飛び降りた。彼女の動きに伴い、甘い香りが鼻を突く。
「さ、次は床、調べよっか」
錘の負荷を感じさせない足取りでエナと名乗った女性は欄間の下から離れていく。赤くなっている痛々しい足首が、まるで嘘であるかのようだ。
「もうやめようよ、こんなの。無意味だよ」
少年は肩を落として溜め息を吐き出す。
エナ達は今、オークション会場の牢に居た。
先ほどいた牢から地下を歩いて移動する最中、いくつかの分岐点で共に居た者たちとは別れ、現在この牢に居るのはエナと少年の二人きりである。
「キミには無意味でも、あたしには意味、あるから」
そう言ってエナは床に敷きつめられた赤絨毯をめくった。
抜け道でも探しているのだろうが、牢屋にそんなものが存在するわけがない。
――あの時は、あんなに難しい顔してたのに。
少年は「なんで金持ちって赤が好きなんだろう」と首を傾げているエナの姿を目で追った。自身が選んだ着物に羽織る真っ赤な内掛けのことは完璧に棚に上げているなと思いながら。
先ほどまで居た牢で看守に連れられて二人の男性が部屋に入ってきた後、彼女はしばらく牢の隅から動かなかった。
ずっと壁に背を預け、足を抱えこんだ両腕の上に顎を乗せてぶつぶつと独り言を吐き続けていたのだ。
時折、眉を顰めたり、そうかと思えば首を横に振ったり。一点を見つめているかと思えば、目まぐるしく色違いの瞳を動かしたり。傍から見ていても忙しく思考を巡らせているのが見て取れた。
二人組が部屋に入ってきたあの時、彼女は確かに笑顔になり、誰かの名を口にした。
けれどそれを呑み込んで数秒。深紅の髪をした綺麗な顔立ちの男性と視線を絡めた彼女が全身から放った緊張は、そのまま部屋の雰囲気を染め替えるほどだった。
「うーん、窓……ってわけじゃないのか、これ」
太く四角い木材で隔離された部屋で何に使うかわからない調度品――膝の高さくらいのそれを抑えさせられている少年は上から降ってくる声にいい加減げんなりしながら答える。
「欄間っていうものだって、読んだことあるよ。どこかの国の古くからある様式だって」
「そっか。……壊すのは手間だね、一枚板で彫られてる。いい仕事してるわ。ったく」
足枷のついた細い素足。その指先だけで全体のバランスを取っていた彼女は断念したようにその調度品からひょいと飛び降りた。彼女の動きに伴い、甘い香りが鼻を突く。
「さ、次は床、調べよっか」
錘の負荷を感じさせない足取りでエナと名乗った女性は欄間の下から離れていく。赤くなっている痛々しい足首が、まるで嘘であるかのようだ。
「もうやめようよ、こんなの。無意味だよ」
少年は肩を落として溜め息を吐き出す。
エナ達は今、オークション会場の牢に居た。
先ほどいた牢から地下を歩いて移動する最中、いくつかの分岐点で共に居た者たちとは別れ、現在この牢に居るのはエナと少年の二人きりである。
「キミには無意味でも、あたしには意味、あるから」
そう言ってエナは床に敷きつめられた赤絨毯をめくった。
抜け道でも探しているのだろうが、牢屋にそんなものが存在するわけがない。
――あの時は、あんなに難しい顔してたのに。
少年は「なんで金持ちって赤が好きなんだろう」と首を傾げているエナの姿を目で追った。自身が選んだ着物に羽織る真っ赤な内掛けのことは完璧に棚に上げているなと思いながら。
先ほどまで居た牢で看守に連れられて二人の男性が部屋に入ってきた後、彼女はしばらく牢の隅から動かなかった。
ずっと壁に背を預け、足を抱えこんだ両腕の上に顎を乗せてぶつぶつと独り言を吐き続けていたのだ。
時折、眉を顰めたり、そうかと思えば首を横に振ったり。一点を見つめているかと思えば、目まぐるしく色違いの瞳を動かしたり。傍から見ていても忙しく思考を巡らせているのが見て取れた。
二人組が部屋に入ってきたあの時、彼女は確かに笑顔になり、誰かの名を口にした。
けれどそれを呑み込んで数秒。深紅の髪をした綺麗な顔立ちの男性と視線を絡めた彼女が全身から放った緊張は、そのまま部屋の雰囲気を染め替えるほどだった。

