緋色の暗殺者 The Best BondS-4

「ジス……」
 吐き出す息よりも小さく出た名は困惑に揺れる。
「ならば無駄口は控えろ。そうすれば、私はお前の願いを叶えよう」
 男はそう言って昇降機の壁の一部に手を当てた。そこに何があるのかエナの位置からは確認出来ないが、懐から白銀に光るカードを取り出しその壁へと持っていったとき、昇降機の作動する音がした。
 どうやら古い昇降機の見かけによらず高度なテクノロジーが内蔵されているらしい。
 降りてきた昇降機に乗り込んだ二人が立っていた場所をしばらく見つめていたエナは乗り出していた身を引っ込めて、ぺたりとその場に腰を下ろした。
「どういう、こと……? 願いって……?」
 呆然と呟いたエナの中から階段を下るという選択肢は消えていた。
「確かめ、なきゃ……」
 彼が何故、此処に居るのか。何故一緒に居た人物がリゼではなく全く知らない人なのか。その目的も何もかも全て、本人に聞かなければわからない。
 無意識に握り締めていた胸元の水晶から手を放し、エナは階段の半ばにある扉を見上げた。
 その扉の前の足場は何も無い。故意に破壊されたように見える。だからこそ、エナの場所からも扉の存在を知ることが出来たのだ。
「鍵、開いてますように」
 祈りを込めてエナは立ち上がり、再び薄暗い階段を上り始めた。
 少し休息を取った体は随分軽くなっていて、扉まで辿り着くのに要した時間はものの二分にも満たなかった。
「たっか……落ちたら軽く死ねるな」
 崩れた階段の端から見下ろしたエナはぶるりと体を震わせて視線を上げた。下を見ていると吸い込まれそうな気分になる。
 扉の取っ手までの距離は目測で一メートルと少しくらいで、途切れた階段の向こう側までは三メートル。掴むものも無い場所で立っている場所から取っ手までは少々遠いし、階段の向こう側に渡るには着地点が高い為、目に見える距離以上に跳ばねばならない――高さが高さだけになかなかの勇気を要する。
「却下、却下」
 こんな足場も見にくい薄暗さの中で跳躍するなど、よほど差し迫った時でなければ出来ない。
――そこまで命知らずになれるもんか。