「手なんて出してませんよ。向こうが自分からしたことです」


「ふざけないで。どうせ嘘でも吐いて、山田くんの優しさを利用しただけでしょ」


「人聞き悪いですね。ま、あながち間違いでもありませんけど」



そう言って、フフッと笑みを零した香里奈ちゃん。

そしてあたしを見つめると、口元に妖艶な弧を描いた。



「町で会ったのはほんとにたまたまです。でも、デート行くって聞いたんで騙してやりました」


「……はい?」


「熱がある~なんて、言ったら本気で信じてくれました。山田先輩はとことんお人好しですね」



誰かさんにそっくり。

そう呟いて、まるで馬鹿にするみたいにあたしを見ながら、



「そのまま家まで送ってくれましたよ?看病までしてくれちゃって。大切な彼女とのデートをほっぽり出して、女の子の部屋で二人きりで、ね」


「……っ!」



勝ち誇ったような笑み。

悔しくて、ギュッと握った拳に力を込めた。


…やっぱり、松川くんが言ったように嘘だったんだ。

山田くんの優しさを利用して、あたしとのデートを駄目にしたかったんだ。


その香里奈ちゃんの作戦に、あたしはまんまと引っ掛かって。

山田くんに怒って、ケンカしたってこと……。



…悔しいのに、何も言い返せない自分が悔しい。


山田くんの言ってたことは本当だった。

嘘なんか、これっぽっちも吐いてなかった。


……なのに、あたし……。