……うん、今日は帰ろう。


大分騒いだし、これ以上いたら本当に迷惑をかけそうだ(笑)。

それに、早くもライバルにしてやられた感じがするし……。


みんなの輪の中で、楽しそうに話している山田くんに胸がキュッとなる。


鞄を肩にかけ、クルッと山田くんたちに背を向けた時だった。




「柚希!」



え………?

その声に振り返ると、同時に飛んで来たペットボトルが、あたしの手の中に収まった。


えっ?えっ?これ…。

慌てて山田くんを見ると、変わらず無表情でこう言うんだ。



「…それ飲み終わるまでなら、いていいよ」


「……っ!う、うん…っ!!」



やった…やった、やったー!

山田くんが、初めて練習見てるの許してくれた!


周りに結露が出来たペットボトルを、構わずギューッと抱き締めた。



“柚希”


ヘヘッ。ヘヘヘヘッ。

やっぱり、あたし山田くん大好きだーっ!




そのあとは、もう悲鳴を出さないようにするのに必死だった。


山田くんが的を射る姿。

真剣な真っ直ぐと向けられた視線。

背筋をピンと伸ばした、その立ち姿。


まるで吸い込まれるように、矢は的の中心をい抜く。


山田くんの周りだけ、空気が違って。

山田くんが立つだけで、空気が変わる。


何もかもがキラキラしてて、カッコ良くて、眩しくて。


射られたのは、的じゃなくてあたしのハートかも。なんちって♪



とにかく、また新たに山田くんに惚れ直した今日。


そんなあたしを、香里奈ちゃんが睨んでいたなんて知らずに。