どす曇った低い声に、情けなくも手が震える。


伊吹先輩はまるで別人のような……鋭く睨み付ける瞳をあたしに向け、けれど口元は弧を描いていた。


その顔は、不気味すぎて………。





「柚希ちゃんは悪い子だなぁ。せっかくこっちが下手に出てあげたのに、そんな事言うんだぁ?」


「…い…ぶき…先輩?」


「分っかんないかなー?アンタ聖の気持ち知ってんでしょ?なのに私と聖の邪魔するんだ?」


「……っ」




伊吹先輩が、一歩、また一歩と近付いて来る。

あまりの人の変わりように、怖くて声が出ない。



伊吹先輩は、山田くんの伊吹先輩に対する気持ちを知ってるの?

だから、こんな言い方をするの?





「柚希ちゃーん?難しく考えなくていいの。

どっちが聖にとって良いのか、考えるだけよ?

それくらいなら、いくらアナタの無い脳みそでも判断出来るわよねぇ?」




……どちらが、山田くんにとって良いのか……?


あたしが諦めて、伊吹先輩と上手くいくのと。

あたしが諦めなくて、伊吹先輩との仲を邪魔するのと。


……どちらが……?