「領主様は身を整え次第いらっしゃるそうですので、もうしばらくお時間を頂きたいと申していました」

 ルーシュは目の前にデザートが来るなり、一口で頬張った。

「すっげ~うま~い! ファブニルのもうまいけど、コレもうま~い! なあ、おかわりあるか?」

 口の端についたクリームをナエルが拭い、その魅了する笑顔で言う。

「ございますよ。少し大きめのものをお持ちいたします」

 ルーシュは何も言わず、頭を上下に振り落とすようにコクコク頷いた。

 汚れもくもりもないティーカップに、香り高いアールグレイを入れて行き、ナエルはルーシュのミルフィーユを取りに行った。

「しっかし、ここまで完璧なバトラーも珍しくね?」

 そんな言葉を言うフェンリルを横目に、マリアはストレートのまま紅茶を啜った。

(何だ、この味!?)

 カップを置き、三人に目をやるが、おいしそうに午後の紅茶を楽しんでいる。
 そんな中、マリアの顔が険しくなる。

 ミルフィーユには手をつけていないが、紅茶を一口飲んだだけで体が奇妙な違和感を訴えてくる。