マリアのタバコの匂いは、フェンリルのタバコと違って良い匂いがする。

 同じようなタバコでも、マリアのタバコの匂いは、なぜか落ち着く。

 それは、いつも俺の傍にいてくれている証拠だ。

 こんなマリアでも、俺にとって大好きな人。


 こんな俺の傍に、こうやっていてくれるから…。


 ルーシュの『声』が穏やかになったのを確認したのか、マリアはタバコを消し、部屋から出て行こうとした。

 足音が遠ざかって行く音が聞こえ、ルーシュは慌てて起き上がり、不安げな顔でマリアの背中を見つめた。

 ドアノブに翳した手を下ろし、振り返りながら舌打ちする。

「ちゃんと声に出せ。頭の中に言われても迷惑だ」

「あ、あの…えと。強くなるから! だから、だから俺の傍にいて!」


 マリアは腰に手を当ててそれに答えた。

「何であたしが、お前の傍にいなきゃならないんだ?」